集団リンチによる不登校 女子中学生ESさん Vol.4
顔が明るくなった(3回目カウンセリング)
9日後、3回目のカウンセリングです。お母さんが同伴です。前回までお父さんが車を運転されていわきまでお越し下さっていましたが、もう大丈夫と判断なさったのでしょう。
前回からの変化は、
・顔が明るくなった。ヒグマはミーシャに。
・今日は高速バスでいわきまで来ることができた。朝早い便なので駅も大丈夫。
・前回から外出はしていないが(用事がないため)、こわくなくなった。
かなりイイ感じです。あれほどのトラウマを持つ14才の少女が、2回で外出がこわくなくなったのです。ポイントは、外出恐怖を直接消していないことです。
その恐怖を生み出す素を除去しただけです。
さて、前回の続きです。EKの暴力の記憶を始末します。
まずは“ジュースをかけられた”から。EKとESさんは立っており、2人とも無言でした。この場面はもう感情がなく、映像の記憶のみ除去。
次は言葉の暴力です。「ムカつく」から。
ところがこのセリフ、映像の記憶はなく、音声の記憶は
「忘れてきた。最近誰にも会っていないのでみんなの声が混ざって誰が誰だかわからなくなった」
といいます。
思い出しても感情もナシ。
「殺す」も同様。他多数のセリフは「もう思い出せない」。
EKとの1対1の会話の内容も思い出せない、といいます。
ならば、と私がまた徹底的に絞り上げます。
「YKに謝れ、土下座しろ」は?と水を向けると、やはり憶えていました。
V=3、A=2。感情はナシ。
トラウマのアルゴリズム2回で映像も音声もゼロに。
このときESさんは笑っていました。
次に「ムカつくんだったらウチのこと殴ってみろよ」ですが、これももう感情がなくV=2、A=3。
トラウマのアルゴリズム2回で映像音声ともにゼロに。
このやりとりの後、腹を殴られた映像は「思い出せない」。
カラオケボックスを出てからのEKの記憶は、前を歩いている後ろ姿の映像だけ。V=3。トラウマのアルゴリズム1回でゼロに。
これ以降EKとは一切接触がありません。
では、EK自身のことについて扱います。
EK自身のことを思い出すと?「別に」。
ならばまた徹底的に絞り上げます。
今この部屋に入ろうとしている、とイメージすると?「今なら普通にしてられそう」。何かされたり言われたりするんじゃないか、などの不安は?「今だったら言い返せそう」。
近くのイスに座っているとイメージすると?「1対1だったら大丈夫そう」。
真横に座っているとイメージすると?「ビミョー。1対1だったらこわくない」。
駅へ行ったらまたEKと会うんじゃないか、という不安は?
「EK1人だったらこわくない。先輩が大人数でいたらこわいかも」といいます。
先輩は多いとき30人が集まるそうです。
他に会う可能性の高い場所は?「駅前のお祭り」。
お祭りで会うかも知れない、という不安は?
「EKらは1人では行動しない。複数で行動します」。
だから、いればすぐにわかる、ということ。
では最後にEKの顔と声です。
顔の映像の記憶の鮮明度はV=2。声の記憶の鮮明度はA=0。
トラウマのアルゴリズム2回で映像をゼロに。
これでEKについては終わりですが、このあたりから、リンチの裏にあった複雑な人間関係が現れます。
「30人集まる」ということについてチェックしておきます。
駅前の大通りの祭りには、YKとEKのグループ(高校生中心)が集まってきます。
この先輩連中は、いるだけならいいけど、必ずESさんに話しかけてくる(目立つし名前が知られている)ため、全員に挨拶しなければなりません。
「ESさんでしょ?」と聞かれて「はい」と答えるけど、誰かも知りません。この事件の前からESさんは「会いたくない」と思っていたそうです。ただし「こわい」はナシ。
駅のゲームセンターで会う場面を想像してもらうと、「イヤ(会いたくない)」がD=8。
トラウマのアルゴリズムを1回行いましたが点数は減らず。
根っこを訊くと、小6の頃、みんな「中学に入ったら先輩に眼をつけられる」と不安がっていたそうです。実際中学に入って、中1の頃は良かったのですが、中2になると先輩とはしゃべりづらくなりました。
「ESさんが先輩の悪口を言った」というデマが流れたそうです。そのデマを流したのがAMでした。AMはかなりのウソつき少女で、コイツのために先輩から殴られた子もいるほどです。
さあ次はAMの記憶とサヨナラです。
AMの記憶除去
リンチの当日朝。
カラオケボックスの前では、AMとは話はしていません。
この場面はV=3、A=0。感情はナシ。
AMに焦点を絞ってトラウマのアルゴリズム2回で映像をゼロに。
次はカラオケボックスの中です。
AMの行為はウーロン茶をかけたことと、「聞こえないからもっと大きい声で話せ!」とヤジったことの2つです。それ以外は見ていただけでした。
まずはウーロン茶から。かけたのは1回だけ。
思い出すと感情は「今は別に」。この場面はV=3、A=0。
トラウマのアルゴリズム2回で映像をゼロに。
次はヤジ。思い出すと「今は別に」。
この場面はV=2、A=0。AMが座っているところです。
トラウマのアルゴリズム1回で映像をゼロに。
カラオケボックスの中では他に座っているところを思い出せます。
V=1。
トラウマのアルゴリズム1回でゼロに。
AMに関しては他にカラオケボックスでは思い出せることがなく、ボックスを出てからのAMの姿も記憶が残っていませんでした。
AM自身のことを思い出すと「関わりたくない」。恐怖はないようです。
“関わりたくない”は正常な思考です。
またここから追い込みます。
この部屋に入ってこようとしているとイメージすると?「別に」。
近くのイスに座っているとイメージすると?「こわくない」。
何かウソついてるな、とイメージすると?「言われたら言い返した方がいい」。
真横に座ってガン見して、ウソ八百しゃべっているとイメージすると?「別に」。
次は会うと想像した時の不安です。
駅で会う可能性が一番高いのですが、不安感や”会ったらイヤだな”などは?「特になし」。
では実際に会ったとしたら?「イヤな感じはない」。
不安が出てきません。これはもう大丈夫でしょう。
AMの顔の記憶の鮮明度はV=2、声はA=1。
トラウマのアルゴリズム2回ですべてゼロに。
これでAMとサヨナラ。
次はMKです。
MKの記憶除去
リンチ以前にMKとは何度かトラブルがあったといいます。
小学生の頃にケンカが1回、しゃべらなくなったのが1回。
・・・出たか。これは掘り起こさねばなりません。
小4以前はクラスが違い、小5ではトラブルなし。
小6になるとMKはみんなから嫌われます。MKは当時中学の先輩と付き合っていました。ある日MKが休み、その日の学活でみんながMKのことを嫌っていることがわかりました。
MKの嫌われる点はいくつかありました。
まず「私に従わないと除け者にする」という言動。気に入った男子やいじめのターゲットになるような弱い女の子に対して支配者になろうとします。
次は、常にリーダーぶった偉そうな態度。「私は先輩と付き合っているから偉いんだ」と考えているのがミエミエ。とにかく評判の悪い子でお母さん方からも嫌われていました。
ESさんはMKがイヤになり一旦絶縁。他の子もMKと喋らなくなりました。このあたりの記憶の映像や音声はなし。感情もなし。
MKは中学に入ってからは先輩がこわいのと、先輩に好かれたいのでペコペコするようになります。ただし自分より強い先輩にだけ。
ESさんは中学では(何故かは憶えていないけど)またMKとしゃべるようになりました。そして裏切られました。
中1の冬、ESさんはMKと2人で遊んでいたところに先輩と会いました。
ESさんは「飽きたから帰る」とMKに言ったのですが、それをMKは「ESは先輩がイヤだから帰る」とねじ曲げ先輩に伝えました。
そして何ヶ月後かにその先輩から「悪口言ったの?」とメールが。
AMは「MKが言った」といい、MKは「AMが言った」というのでわからなくなり、先輩に直接訊くと、「誰かは教えられない」。
結局のちにMKが犯人だとわかったのです。これでまたMKと喋らなくなりました。
ここまで話を聴いてタイムアップ。ヤバイ。
今まで順調だったのですが、MKで大ブレーキの予感です。
しかし時間がかかっても、過去のもつれた記憶の糸を一本一本断ち切ってあげなくては。
カウンセラーの粘り強さが問われます。
ただ、最初にYKを選んだのは幸運でした。