不登校の3つの因子とは?タイトル画像

第一原因の発見ストーリー Part.1

裏切られた少女はまた崩れ落ちた…

裏切られた少女が不登校に…

私がこの仕事を始めた当初は、不登校専門ではなく、老若男女全ての方のカウンセリングをしていました。

ある日、女性から電話がかかってきました。

「私の娘が不登校なのです。どこへ行ってもよくなりません。そちらのホームページを見ました。娘を助けてください・・・」

そしてSさん(当時17歳)がお母さんに連れられてやってきたのです…
明らかにおどおどしています。とてもかわいい顔なのに表情も暗い。お母さんの表情にも余裕がない。疲れが見えます。

私はカウンセリングに入りました。これまでの事情を詳細に聞き出します。

私のカウンセリングは、「いつ、どこで、誰と誰が、何を、どのように行い、何を感じたのか」を長時間かけて明らかにします。実はこれが一番重要で、これに数時間かけることもあります。

カウンセリングの結果わかった彼女のこれまでの事情をまとめると、次のようになります。

まず、中学3年のとき、友達とうまくいかなくなりました。当時5人の仲良しグループで行動していたのですが、そのうち一人から無視するような態度を取られ始め、次第に他の子たちとも疎遠になり始めました。

高校に入ってからその子とは仲直りしましたが、傷は深く、新しい人と知り合っても心を開けず、信用できないようになったのです。

Sさんは普通高校に入学しましたが、最初の日に教室に足を踏み入れたとたんパニックを起こし、保健室に担ぎ込まれました。
それから家に閉じこもる日々が始まりました。その高校には結局その日一日しか行けず退学。お母さんの勧めで通信制高校に入りました。

こうして、Sさんは高校くらいから人ごみには緊張と不安、恐怖が強くなり、一人で行動できなくなりました。

加えて胃痛もひどく通学のバスにも乗ることができません。通信制高校であっても、週3回くらいはスクーリングといって近くの学校へ行って教室で授業を受けなければならないのですが、それに行くことができません。

すると、留年と退学の危機が間近に迫ってきました。

学校へ行くにも、何かを始める前に緊張しないように頭の中でシミュレーションしてしまい、気が滅入ってしまいます。さらに失敗しないように考えて、不安になります。
他人の目も気にしすぎます。自分の理想と現実が違うから外出できません。

お母さんは娘を治そうと、市内の二箇所の心療内科、児童相談所、保健福祉センターにまで診察させていました。

心療内科では対人恐怖症、うつと診断されていました。当然薬も処方されていましたが服用しても何も変わらず、彼女の体質に合わない副作用が感じられたため、一回で薬はやめたといいます。
そして心療内科に通うのも止めました。結局、彼女は何一つ改善されませんでした。

彼女の気分がいいのは、学校がない日と雨の日だけ。外に出なくていいからです。

それと、中学のときに赤面症を男性にからかわれ、それ以来男性がダメだといいます。(それにしては、彼女は私とは割りと普通に話していたことに後で気づきました。)

カウンセリング開始

私は質問します。

「では、自分の解決すべき問題は何だと思う?」
その答えを聞いて私は驚きました。
「外に出られるようになることです。それと男性がダメなことです。男性とは社交辞令のみで、一線を引いています。」

意外なくらいしっかりした受け答え。こんなにちゃんとしゃべれるなら、期待が持てそうです。

ここでお母さんが加わりました。「主人とはこの子が小さな頃に離婚しました。祖父も同じ時期に亡くなりました。好きな男性がみんなこの子から離れていったんです。」
そうか、なるほど。ただ、それは今の苦しみに関係していないかもしれないな、と私は思いました。

彼女はもうひとつ、奇妙な悩みを訴えました。人が言ってくれた“元気づける言葉”“感動した言葉”を忘れてしまうといいます。
苦しんでいる彼女にはいろんな人がいい言葉をかけてくれ、そのときは感動するのです。しかしすぐにその言葉がどんなものだったか忘れてしまいます。
むろん、記憶障害などではなく、ほかの事はちゃんと覚えているというのです。このような悩みを私は聞いたことがありませんでした。

この悩みの謎は、後に明かされることになります。

ここまで情報を得て、私は心理療法に入りました。
まず、人ごみに入って耐えているところを想像してもらいます。すると、想像なのに恐怖がわきあがり、その度合いを10点満点であらわすと10点でした。イメージだけでここまで恐怖が強いのは、極度の対人恐怖といえます。

こういった問題には、思考場療法(TFT)が最適です。

TFTは1980年代に米国の心理学者が開発した心理療法です。催眠などとはまったく異なる簡単な方法で、人間が持つほとんどすべての否定的な感情や感覚を消すことができます。私もその効果にいち早く着目し、自分のカウンセリングに取り入れて、多くの人から苦しみをきれいに消し去っていました。

まず、人ごみで耐えている恐怖、顔が赤くなったらどうしよう、という不安感をTFTの「恐怖のアルゴリズム」で4点にまで減らしました。これにかかったのは30分程度でした。

この時点でお母さんは私のことを信用したのか、「仕事がありますので・・・」といって部屋を後にしました。

次に、中学のときに彼女をからかった男のことを思い出してもらいました。この男とは今でも街中で会い、気持ち悪い、恐い、イヤ、という感情がわきあがってくるといいます。その感情の強さは、10点満点で9点。これも相当です。

こういったトラウマにもTFTは非常に効果があります。この男に対する感情を取り去るのにTFTの「トラウマのアルゴリズム」と「筋診断」を使って約10分後には、0点にまで下がりました。つまり、その男のことを思い出しても何も感じないのです。

また彼女は、 “どこへ行ったとしても自分が恥をかきそう、人と違う行動をしてしまいそう”という、不安感があることを教えてくれました。
この恥の感覚と、不安感も、TFTで難なく消し去ることができました。
完璧ではありませんでしたが、まずは一通り対人恐怖などの苦しい部分をさっと改善。

さて、ここまできたら確認。

「いま、人ごみへ行くことを考えると、不安はある? 恐怖は感じる?」
「いえ、大丈夫です。」
「あの男のことは?」
「別に・・・もうなんとも思いません。」
「OK。成功だね。じゃあ次は人の言った言葉を忘れてしまう、っていうやつをやってみようか。」

カッコつけて言ったはいいものの、この奇妙な悩み、さてどうしようか…
そこで私はある仮説を立てて、彼女の心の中を探ってみることにしました。

人の言った言葉を忘れてしまうというのは、感情や感覚ではないのでTFTでは扱えません。
また、その悩み自体も奇妙な感じがぬぐえなかったので、私は彼女の深層心理の中に、「言葉を忘れさせる要因がある」と仮説を立てて、深層心理を探ることにしました。

Sさんはジャージを着ており、借りたスペースは和室だったため、座布団を敷き、彼女に横になってもらいました。

今度はNLP(神経言語プログラミング)の6ステップリフレーミングという技術で軽い催眠状態に誘導して、心の奥深くを彼女自身に探ってもらいます。
あせらせず、ゆっくりと時間をかけて。

すると、出てきました。

人間不信が…!

女が口を開きます。「自分が人を信じていない部分があります。」

私 「わかった。その“心の一部分”を、Aさんと名付けようか。Aさんに、あいさつしてみてくれる? こんにちは、って。」
Sさん 「・・・・・・・・・・何も返事をくれません。」
私 「そう。返事をくれないのか。Aさんはどんな姿かたちをしている?」
Sさん 「自分と同じ姿をしています。」

自分と同じ姿ということは、彼女自身か・・・?

私 「Aさんはどんな服装をしているの? 表情はどう?」
Sさん 「・・・服装はよくわかりません・・・うずくまっています・・・」
私 「Aさんに訊いてみて。 “何があなたをそんなにうずくまらせているの?”」
Sさん 「・・・眼を開けたくない・・・どうせ人は裏切るから・・・」

出てきた。これだ。
これが傷つけられた彼女のコアだ。

裏切られて傷ついた彼女の心は、人の言葉を信じないことで、また裏切られることから自分を護っていたのか。

私 「Aさん、あなたは何を伝えようとしてくれているの?」
Aさん(Sさん) 「きれいな場所で生きたい。自然がいっぱいで、みんな笑っている、そんな場所で。」

Sさんの口を借りて、Aさんが語り出します。私は色々な技法を取り混ぜ、さらに質問を続けます。

私 「あなたはSさんに何をしてほしい?」
Aさん 「・・・信じられる人がほしい。」
私 「そうか。ではあなたは何のためにSさんの中にいてくれているの?」
Aさん 「汚い世界をSに見せないように・・・」

どうやらAさんはパニックや対人恐怖とも関係していそうです。

私 「じゃあ、あなたがもう大丈夫、って思えたら、どんな風になっている?」
Sさん 「Aが泣いている・・・」
私 「どうして? 聞いてみて。」
Sさん 「・・・きれいな場所がないから・・・」

Sさんの閉じた眼から、白いほほを伝って涙がひとしずくこぼれ落ちました。
こんな少女がなんと哀しい涙か…

私 「そうだね。じゃあ、Aさん、どうすればあなたは笑顔になるの?」
Aさん 「・・・裏切らない友達、大事な人を見つけてほしい・・・」

きた。勝負所だ。

全身全霊のメッセージ

もうテクニックはいらない。全身全霊を込めたメッセージを伝えなければ・・・!
私は眼を閉じ、極限の集中状態に入りました。

私 「Aさん、僕の話を聴いてくれる? 今までね、Sさんは苦しんできたよね。友達に裏切られて、外出できなくなって、学校にも行けなくなって、他人の眼を気にして・・・
けれどね、もう大丈夫だよ。Sさんはきっと誠実な友達を見つけます。大事な人を見つけます。僕がついているよ。約束する。必ずSさんは誠実な友達と出会える。大事な人と出会える。」

ここはもうテクニックは関係ありません。私の人格があらわになってSさんとぶつかり合います。本当の心の交流を起こすために。
もちろん、脳の別の部分で、どうやって誠実な友人と出会えるようにするか、フル回転させていました。
さらに言葉をAさんに届けた後、こう続けました。

私 「・・・Sさん、今度はあなたの番だ。自分の言葉でAさんに言ってあげて。“私はもう大丈夫。きっと信じられる友達、大事な人と出会う”って。」
Sさん 「(うなづく)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

彼女は言葉に出さずに、心の中で語りかけていました。

このとき、お母さんが戻ってきました。横になって涙を流しているわが子を見て一瞬驚いたようですが、すぐに今が大事な場面だということに気づいたようで、そっと部屋の壁際に座りました。

しばらくしてSさんが口を開きました。

Sさん 「“わかった”っていってる・・・」
私 「Aさんの様子はどう?」
Sさん 「まだ泣いているけど大丈夫。立ち上がった・・・」
私 「Aさんにありがとう、って伝えて。」
Aさん 「はい。」

こうして一回目のカウンセリングは終わりました。

Sさんがどんな言葉をAさんに与えたのかはわかりません。
涙にぬれた眼を赤くしながら、少し笑顔を見せ、Sさんは起き上がりました。

次回のことはお母さんと私で決めた後、いくつか言葉を交わし、おぼつかない足取りで、お母さんと部屋を後にしたのです。

2回目のカウンセリング

そして一週間後、二回目のカウンセリング。

彼女の自宅に到着した私は、いきなりお母さんと、おばあさんのお出迎えを受けました。なんと、Sさんは一回目のカウンセリングの二日後の登校日から、学校へ再び行き出したというのです。

医師らがなんともしようのなかったことが、無名のカウンセラーが一回で状況を一変させたのだから、ご家族が驚くのも無理もないのでしょう。

そして彼女の部屋で再び対面しました。彼女の眼を見たわたしは、平静を装いながら、彼女の顔のあまりの変わりように「おお、これは…!」と声を上げそうになりました。

彼女の表情は一変していました。目の下のあったクマが消えていたのです。そして、眼から眉間にかけて何か暗いものがへばりついていたのですが、これもすっかり消えていました。

Sさんは白いほほを少し赤く染めてはにかみながら、自分に起きた変化を語ってくれました。

・・・一人で外出できるようになった。
以前より口ごもったしゃべり方が取れた、と周囲の人が言う。
電話で話しただけなのに相手から「明るくなったね」といわれる。
外出するときに緊張で力が入っていたのがなくなった。
気分の浮き沈みがなくなって、すごく楽。明るくなった。
いやな事を考えなくなった。
シミュレーションしなくなった。
シミュレーションする前に行動に移せるようになった。
自分の中にもう一人の自分がいて、安心感が得られるようになった。
だから、学校へ行けるようになった。・・・

今していることは?と尋ねると、中学からの勉強をやり直しているといいます。特に数学がダメなようです。また、体力がないので、一人で外出して体力をつけるようにしているとも教えてくれました。

そして、今回の彼女の訴えは、学校へ行く前に緊張する、ということと、こんな好調はいつまでも続かないんじゃないか、という不安感でした。

確かにその不安は前回は消しませんでした。私はもちろんTFTでその緊張感と不安感を残らず完全に消していったのです・・・

3回目のカウンセリングでは、NLPを使って、「誠実な友人」と出会ってもらいました。

4回目のカウンセリングでは、お母さんから 「Sが毎晩夜更かししてパソコンで小説を書いている。ほとんど中毒。他にもわがままが過ぎて、家族に迷惑をかけている。何とか止めさせてほしい。」 とのお願いを受けました。

そこで、もう一度Sさんのコアと話をしたところ、Sさんは自らパソコンを捨てることを決意しました。

不登校セラピーの始まり

このSさんの事例を当時のHPに掲載したところ、子供の不登校に悩むお母さんからすごい反響がありました。

ここから不登校セラピーが始まりました。

できるだけ子供の心の苦しみを早く取り除いてやり、再登校へ向けて心を整えてやる。
今まで不登校に関わる人たちがほとんど行ってこなかったことをし出しました。

子供はなぜ学校へ行けないのか。
子供が苦しんでいることは何か。
これらに真剣に切り込み始めたのです。それと同時に、さまざまな情報も取り入れました。

家族療法士が言うように、家族関係の問題なのか。
一部の医師が言うように、うつなのか。ある種の病気なのか。
一部の治療家が言うように、身体的な問題なのか。

どうやら一種類に絞ったモデルは間違いで、個々の子供の事情に合致した対応をとることが必要だと考えていました。

これが不登校セラピー誕生の軌跡です。

こうして私は、致命的な過ちを犯してしまいました。
治したつもりになって、いい気になって。Sさんの力を引き出したつもりになって。
本当に愚かでした。

そうです。年月が経ち、不登校の根本原因に気づいたのです。
「しまった。Sさんはどうなったろう…」

私はSさんと電話で話しました。

Sさんは無事高校を卒業していました。
ところが卒業後、ネガティブな考えがぶり返し、半年間も引きこもってしまいました。
「自分はダメな人間だ…」「自分なんて生きている価値がない…」

いい医師に出会った彼女は、薬の力を借りながらなんとか自力で引きこもりを脱出したといいます。
そして、今では障害を持つ人たちのための施設で働いているそうです。

私: 「そうか。お母さんの会社は継がなかったんだね。」
Sさん: 「将来的にはそうなるかもしれないですけど、今は同じような障害を持った人たちのために
働きたいって思って。」
私: 「あのとき理想的な(裏切らない)友人と出会うワークをやったよね?本当に出会えた?」
Sさん: 「はい!あの時先生とやったワークで、誠実な友達と出会うとか、白い家に住むとか、
みんな叶いましたよ!」
私: 「それは本当に良かったね。これからどうしたい?」
Sさん: 「25歳までに結婚したいです。私のことを理解してくれるような人と。」
私: 「おお!あの時男性恐怖症っていってたじゃない。あれはどうなったの?」
Sさん: 「まだ少し男の人は苦手なんですけど…やさしい男の人と結婚したいなって。」

彼女は自立して、また成長したのでした。
これは他のカウンセラーからすれば成功かもしれません。
しかし、電話では和やかに話しながらも、私は内心本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

「やはり…私があれを取り除いていたならば、彼女は半年も引きこもらずに済んだ…」