引きこもりになると話せなくなるのは本当?

学校や職場などに通うことが出来なくなり、社会との接点を失った状態が続く「引きこもり」は現代日本において極めて重大な社会問題です。
これに対して国も就労支援やカウンセリングといった政策を打ち出していますが、引きこもりにはそれを克服した後も続く後遺症が存在することは、あまり知られていません。
それは他者と会話できなくなるコミュニケーション障害です。

引きこもりの子供を抱えた親の多くは、学校に通っているかどうかや、就職して経済的に自立しているかどうかといった、世間体の部分で子供の状態を判断しがちです。
そのため一度不登校になった子供が復学したり、就職するだけで安心してしまいますが、これはとても危険なことであるといえます。
子供にとって本当に大切なのは、社会的身分の良し悪しではなく自分の力だけで社会と向き合い共同体の構成員として、幸せな人生を送ることが出来るかどうかだからです。
大抵の元引きこもりの子供たちは、100%問題を解決して社会復帰している訳ではありません。
むしろ両親や学校、カウンセラーといった周囲の人々の期待や圧力に負ける形で、傷を抱えたまま社会復帰している人の方が多いのです。

そうした傷の一つが他人と上手く話せなくなるコミュニケーション障害です。
これを放置しておくと再び引きこもりになってしまう危険性が高まるので、学校に通うようになったからもう安心だとは考えず、長期的な視野をもって将来発生するかもしれない「話せなくなる問題」と向き合うことをおすすめします。
繰り返しますが大切なのは世間体ではなく子供が幸せな人生を送れるかどうかです。

引きこもりは元々話せなくなりやすい

サラリーマンや教師、スポーツ選手にも様々な性格の人間がいるように、引きこもりになってしまう人の性格も様々です。
ニュースなどでは子供の頃からゲームばかりしていて、外で遊ぶのが嫌いな子供が引きこもりになるような報道をよくされます。
しかし実際には運動神経抜群でスポーツ推薦を受けて進学した子供が、部活内のイジメや怪我によって家に閉じこもるようになったり、モデルのような容姿の女の子がその美しさゆえに同性の嫉妬を買い、学校にいけなくなったりするケースも多いのです。

その一方で引きこもりになってしまう子供に共通する特徴というのも、やはり存在します。
それは自分が関係していることを上手く話すのが苦手だということです。
その意味で引きこもりとコミュニケーション障害はとても密接な関係にあるといえます。
ただ誤解して欲しくないのは話すのが苦手ということは、決してそれ自体が悪いことではないということです。
むしろ自分は他人と会話するのが得意で、どんな相手にも話しかけてすぐに仲良くなれるという人の方が、普通に社会生活を送っている人であっても少数派でしょう。

保護者の中には子供の内気で非社交的な性格こそが、引きこもりになってしまう原因だと考えて性格矯正が必要だと考える方もいますが、そうした保護者の対応は子供を萎縮させ今の自分は社会から必要ない人間なんだと、否定的な気持ちで心をいっぱいにしてしまいます。
引きこもりからの社会復帰や、コミュニケーション障害を克服するためには、ネガティブな感情は厳禁です。
むしろ他人と上手く会話ができない自分自身を子供が許せるような状態を目指すのが大切です。

コミュニケーション障害とは何か

ここで具体的なコミュニケーション障害の克服方法と対策方法について見ていく前に、コミュニケーション障害とは何なのかについて復習しておきたいと思います。
コミュニケーション障害とは対人関係が必要な場面において、適切な言動を取ることができなる障害のことです。

実のところコミュケーション障害は、特別な人間だけがなってしまう病気というわけではなく、学校に通ったり就職してサラリーマンとして働いている人も患っている問題です。
こう聞くと「いや自分はコミュニケーション障害なんて、なったことがないよ」と思った人もいるでしょう。
たしかに他人の前に出ると全く喋ることが出来なくなるという程に、重度の障害を抱えている人は稀です。
しかし顔見知りではあるが、大して親しくない知り合いのグループを見かけた時、声をかけられたり一緒に帰ることが嫌で、相手がこちらに気づいていないのを幸いに隠れてしまった経験は、多くの人があるのではないでしょうか?

また日本人は電話が嫌いだという人が多い民族としても知られています。
絶対にかけられないという程ではないけれど、緊張してしまうから好きになれないという人は多いはずです。
そうコミュニケーション障害とは重度、軽度の差はあれども誰しもが抱えている心の病なのです。
これは引きこもりになってしまった子供と対話する際に、とても重要な視点といえます。
引きこもりになってしまった子供は、自分のことをどうしようもない落ちこぼれ、欠陥品だと考えてしまいがちです。
しかし両親や教師といった周囲の大人が、それは君だけが抱えている特別な異常ではなく、誰しもが抱えている問題なんだと伝えることで、子供のストレスは大幅に軽減されます。

コミュニケーション障害を克服していく方法

コミュニケーション障害の対する一番効果的な方法は、定期的なコミュニケーションを絶やさないということです。
具体的には可能な限り、家族の間で予定を合わせて一緒に食事をする、そして食事の際はお互いにその日に起きたことについて、話すことを習慣化するということが最も一般的な方策となります。
最初のうちは上手くいかず気まずい空気になるかもしれませんが、毎日地道にこれを繰り返していけば少しずつ会話できる時間はのびていきます。

子供が進学や就職などで家を出た場合も、出来るだけ電話などをして話し相手になりましょう。
引きこもりになってしまう子供の多くは自尊心が強く、他人に頼るのが苦手です。
そのため職場や学校で辛いことが起きても、両親を心配させてはいけないと本当に致命的な状態になるまでは、我慢して一人で問題を抱え込んでしまうケースが多いのです。

これを防ぐためにも、時間を割いて親子で定期的に会話することを習慣化していきましょう。
この時、一番大切なことは保護者が子供に対して完璧であることを求めないことです。
両親にとって子供は大切な宝物ですから、可能であれば周囲の誰からも愛され頼られるリーダーシップを持った人間として活躍し、恋人を作りいずれは結婚して孫の顔を見せて欲しいと思うのはある意味当然です。
ですが私たちが完璧な人間ではないように、子供たちもまた完璧な人間にはなれません。

自分たちなりに努力を重ねても、人と交流を深めるのは生涯苦手なままということもありえます。
でもだからといって、そこに至るまでの努力が無駄ということにはなりません。
これまでよりも少しだけ他人と話せるようになったなら、それは意味のあることなのです。

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現代社会では就職活動で求められる要素に第一に「コミュニケーション能力」があげられるなど、社交的な性格ではない人間には生きづらい世の中です。
子供たちが少しでもよりよい人生を送れるようにするためにも、一緒に食事をとることを習慣化するなどして少しずつでよいので、コミュケーション能力を磨く機会を作りましょう。

普段から親子で会話するようにしておけば、子供が学校や職場で問題が発生し苦しんでいる時に、いち早くSOSのサインを感じ取り、問題を早期解決することも可能です。
今の日本は共働きの家庭も多く、日々の仕事の激務から家庭の時間を作ることが困難な人もいるでしょうが、私たちは社会のために生きている訳ではなく、自分と愛する家族の幸せのために生きていることを忘れないで下さい。